千葉大学災害治療学研究所

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災害情報解析研究部門 ヨサファット テトォコ スリ スマンティヨ 教授

災害の前兆を「見える化」する
―災害予測システムの開発をめざして―

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教員紹介

ヨサファット教授

災害情報解析研究部門
ヨサファット テトォコ スリ スマンティヨ 教授

リモートセンシングによる災害の早期且つ正確な予測を目指し、合成開口レーダ(SAR)を活用して、都市インフラの監視をはじめ、地殻変動、火山噴火、地盤沈下などを観測している。小型航空機、人工衛星、地上観測データを用いて線状降水帯の予測による土砂崩れや電離層の乱れによる大規模地震を予測するシステムを開発している。

インタビュー内容

清水先生

清水
(インタビュアー)

よろしくお願いいたします。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

よろしくお願いします。

清水先生

清水

今日は、ヨサファット先生が災害治療学研究所でどういった研究をされているのかについて、お伺いできればと思っております。
先生は普段、千葉大学環境リモートセンシング研究センター(CEReS)で、地殻変動を可視化したりする技術の開発をされていると伺いました。
実は私、そもそも「リモートセンシング」というものがよくわかっていないのですが、おそらくこの言葉を聞きなれていない方も多いのではないでしょうか。
先生、リモートセンシングっていったいどういうものなのか教えていただいてもよろしいでしょうか。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

はい、ありがとうございます。
まずは、リモートセンシングという用語についてご説明します。「リモート」は遠いところ、「センシング」は観測という意味です。つまり、リモートセンシングは「遠いところの対象物を観測するための技術」ということになります。
身近な例を挙げますと、一番簡単なのはスマホのカメラですね。スマホで遠く離れた場所にある富士山の写真を撮ったりするのも、リモートセンシング技術の一種です。

ヨサファット教授
清水先生

清水

私たちが持っているスマートフォンで富士山を撮影する、これもある意味リモートセンシングだと。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

そうです。だから皆さんも毎日リモートセンシングやっています(笑)

清水先生

清水

なるほど(笑)

ヨサファット教授

ヨサファット教授

ただし、皆さんのカメラは富士山の全体像は撮れるかもしれませんが、麓にある田んぼとか、そこにある稲とか、じゃがいもとかは、近くに行かない限りは撮影できないですよね。
しかし、例えば質のいい望遠鏡を使ったりして、普通のスマホのカメラよりも解像度の高い画像を撮れば、遠く離れた場所からも富士山の麓にある食物を見ることができます。肉眼や普通のカメラでは捉えきれない遠くのものを、あらゆる方法を駆使して詳しく観測する、これがリモートセンシング技術なんです。
我々はこの技術を応用して、災害を観測することに注目しております。我々が開発した「円偏波合成開口レーダー」は、空の上からマイクロ波を発射して、地球表面の地殻変動を観測します。年間数ミリの変化もキャッチできるので、将来的にはこの観測データをもとに、「あと一週間後、災害が発生するよ」というふうに、災害の予測が可能になると考えています。

(出典:ヨサファット研究室HP) (出典:ヨサファット研究室HP)
清水先生

清水

年間数ミリの地殻変動まで分かるというのは、大変素晴らしい技術だなと思いました。
ただひとつ、まだイメージがわかないのが、空の上からマイクロ波で地表を見るって、どういうことなんでしょうか。一般的に遠くの物を見るときは、遠くから届いた赤外線や光を、レンズを通してカメラで捉えるっていうイメージがあるんですが...。おっしゃったように、「マイクロ波」を使うというのは、鮮明な画像を撮るために重要なのでしょうか。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

はい、そのとおりです。
マイクロ波というのは、赤外線や光(可視光)と同じ、電磁波の一種です。電磁波は、周波数と波長によって、X線、紫外線、光、赤外線、電波などと呼び名が変わります。身近な例でいうと、皆さんのお宅にもある電子レンジも、マイクロ波の一種を利用した技術ですね。
私たちの目に見えている光は、波長がだいたい380~760ナノメートルですが、マイクロ波の波長はそれよりもずっと長く、1ミリ~1メートルくらいです。

電磁波の分類と特徴(出典:Inductiveload, NASA. Translation by t7o7k, CC0, via Wikimedia Commons) 電磁波の分類と特徴(出典:Inductiveload, NASA. Translation by t7o7k, CC0, via Wikimedia Commons)
清水先生

清水

う~ん、難しい...。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

空の上から地表を普通に見ようとしても、雲が邪魔で見えません。これは、光が大気中の雨粒を通り抜けられず、散乱してしまうからなんです。雨粒の直径は1ミリより小さいくらいですが、光の波長はこれより短いので、雨粒にぶつかった光のほとんどはまっすぐ進み続けることができず、散乱してしまうんです。

清水先生

清水

じゃあ、それこそ目に見える光とか、よく聞く赤外線ですと、雲や霧は通過ができないということですね。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

そうですね。だから普通のカメラを人工衛星や飛行機、ドローンなどに搭載しても、雲だらけの写真しか撮ることができません。
しかし、マイクロ波の波長は雨粒の直径よりもずっと長いので、雨粒を透過することができるんですよ。つまりマイクロ波を使えば、雲の影響を受けずに地表の様子を知ることができるのです。雲があってもきれいな画像を作ることができます。

清水先生

清水

マイクロ波を使うと、夜とか天候が悪いときでも、空から地表の観測ができてしまう。24時間、全天候型で観測ができるんですね。

清水先生
ヨサファット教授

ヨサファット教授

そうです、はい。
普通のカメラを使うと、いくら雲がなくても、夜は何も見えないですよね。カメラのセンサーは、太陽に照らされた対象物が反射した光をキャッチしているからです。一般的な気象衛星も光学センサーのカメラを搭載していることが多いので、昼間しか地球の様子を観測できません。

清水先生

清水

へえ~。やっぱりそうなんですね。昼だけなんですね。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

我々が開発した合成開口レーダーはどうするかというと、自分でマイクロ波を発射するんですね。カメラのフラッシュと同じように、自分で空から地表を照らすんです。光の代わりにマイクロ波を使って。
人工衛星に積まれた合成開口レーダーから飛ばされたマイクロ波は、地表まで届いて跳ね返って、一部はまた戻ってくるんですね。それをレーダーが受信して、画像を作ります。いつでも自分でマイクロ波を発射できるので、夜間でも観測することができます。
災害とは昼夜関係なく起こるものです。いつ来てもおかしくありません。しかし我々が開発した合成開口レーダーを使えば、将来的には日本だけじゃなくて世界中の災害を、24時間体制で監視することも可能になります。

清水先生

清水

先生が発明されたマイクロ波を使った合成開口レーダーというのは、災害がいつどんな天候のときに来るかもわからない状況でも、空から地表の状態を観測できるんですね。
世界中の観測を続けてデータを蓄積していくと、先ほど先生もおっしゃったように、「あと1週間後、災害が発生するよ」というようなことが事前に分かりそうですね。災害の予測といった点では、どういった活用ができそうでしょうか。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

はい。実は、災害をより正確に予測するためには、たくさんのレーダーを打ち上げる必要があります。人工衛星は常に上空の軌道上を回っているので、ある1地点を観測したら、次に同じ地点に戻ってくるのに1週間くらいかかります。もし世界のどこかで災害の予兆が起こったとしても、レーダー1機だけでは、その地点を毎日観測し続けることができないのです。

清水先生

清水

それはちょっと困りますね。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

我々が開発した「円偏波合成開口レーダー」の優れた点は、従来の合成開口レーダーに比べて、観測の効率が格段に良くなったことにあります。効率化によって人工衛星の重さも10分の1くらいにまで軽量化できたので、打ち上げ費用を抑えて、たくさんのレーダーを打ち上げられるようになりました。

(出典:ヨサファット研究室HP) (出典:ヨサファット研究室HP)
ヨサファット教授

ヨサファット教授

土砂崩れなどの災害が起こる前には、何らかの地殻変動が起こることが分かっていますが、これは実感できないくらい本当にゆっくりです。例えば1年間に1ミリ地面が動いていても、皆さんはたぶん実感できないでしょうね。

清水先生

清水

もうまったくわからないですよね。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

数十センチとか1メートル動いても、たぶん気づかないね。

清水先生

清水

いやあもう、全然わからないです。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

しかし、この円偏波合成開口レーダーを使って毎日観測し続ければ、地表の建物が1ミリ傾くなど、ほんの些細な変化でも、観測することができます。

(出典:ヨサファット研究室HP) (出典:ヨサファット研究室HP)
清水先生

清水

すごいですね。本当に1年間で1センチのずれが観測できるっていうのは、地震の予測なんかにも使えるんじゃないかなとか思ったりはするんですけども、今世界中でこういう研究をされてる先生達はいらっしゃるんですか。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

はい。世界中では、地殻変動を観測し、データ処理を進めておられる先生方や研究員の方は多いんですね。
ただ、観測するためのシステムを作って、そのデータ処理もやっているのは、世界中には多分、この千葉大学だけだと思います。

清水先生

清水

千葉大学だけ!

ヨサファット教授

ヨサファット教授

そうです、はい。世界に誇れる技術だと思います。
我々は実際に自分の手でシステムを作っておりまして、それを飛行機や人工衛星に搭載して運用し、そのデータをさらに自分で処理して、社会に提供しているのは、千葉大学しかないと思います。

清水先生

清水

千葉大学だからこそできるような技術なんですね。この円偏波合成開口レーダーは、巨大地震の予測とかにも使えたりするんですか。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

はい、そうですね。
今までの研究成果によると、巨大地震が起こる前、何らかの地殻変動によって低周波の電波が発生し、大気圏の上層にある電離層と呼ばれる部分に影響を及ぼすことがわかっています。この時の電離層の乱れを合成開口レーダーで観測することで、その真下の地表では大きな地震が起こるかもしれない、と予測することができます。

清水先生

清水

なるほど。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

また、合成開口レーダー以外にも、GPSを使って電離層の変化を観測する方法もあります。スマホの地図アプリなどで皆さんも使ったことがあると思いますが、GPSは、GNSS衛星という複数の衛星からの電波を地上で受信して、地球上の位置を把握する技術です。
このGNSS衛星の電波は、電離層の状態を観測するのにも利用されます。電離層に乱れがあると、衛星から発射された電波は曲がりながら進み、地上局や小型衛星に届くまでの時間が変わります。このずれを観測すれば、どこで電離層の乱れが起こったかがわかり、その下では地殻変動が起こった、またはこれから起こる可能性があると推測できます。
これらの合成開口レーダーとGNSS衛星のデータを組み合わせて、電離層の乱れと地殻変動の関連性を調べていくと、巨大地震の予測ができるようになると考えています。

ヨサファット教授
清水先生

清水

へえ~、すごいですね!
将来的に先生の研究が行政等と連携すれば、天気予報だけではなくて、災害予報地震予報も実現するかもしれませんね。実際に災害が起きる前のかなり早い段階で、SNSやインターネット等を通じて発信ができると、多くの方にとって防災に繋がるんじゃないかなと感じました。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

やっぱり我々の長年の夢は、我々の研究成果が社会に貢献できることですね。特に災害予測が実用化できたら、沢山の方々の命を救えると思います。最終的には安全・安心な社会を実現したいと思います。

清水先生

清水

ありがとうございます。
今日はお話しいただきまして、ありがとうございました。

ヨサファット教授

ヨサファット教授

ありがとうございました。

ヨサファット教授
ヨサファット教授
ヨサファット教授
ヨサファット教授
ヨサファット教授
ヨサファット教授
ヨサファット教授
ヨサファット教授
清水先生

千葉大学未来医療教育研究機構 特任助教
インタビュアー:清水 啓介

未来医療教育研究機構特任助教。災害治療学研究所ではファンディング企画部で広報を担当。附属病院整形外科/痛みセンターでは、脳画像、心理学的見地から慢性疼痛の作用機序の解明及び治療を担当している。

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