千葉大学災害治療学研究所

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ストレス免疫治療学研究部門 平原 潔 教授

ストレスで具合が悪くなるのは「気の持ちよう」ではない?
―カギとなるのは免疫だった!―

インタビュー動画(5分版)

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教員紹介

平原教授

ストレス免疫治療学研究部門
平原 潔 教授

医学研究院免疫発生学教授。専門は組織線維化などの「免疫系」が深く関与する様々な難治性病態の解明。当研究所ではストレス免疫治療学研究部門において、災害時のストレスによる免疫の異常によって生じる病態について研究を行う。災害発生後、慢性期、移行期に入ってから生じる特有の難治性病態に対する新規治療法開発を目指す。

インタビュー内容

清水先生

清水
(インタビュアー)

よろしくお願いいたします。

平原教授

平原教授

よろしくお願いします。

清水先生

清水

平原先生は、災害治療学研究所ではストレス免疫治療学部門ということで、災害とストレスと免疫と、複雑に絡み合った状態を紐解いていくのがお役割だと理解しております。
「ストレス免疫治療学」という言葉を聞いてまず私が想像したのは、ストレスが溜まると免疫力が下がって病気になりやすくなる...ということです。なんとなく皆さんもそういう話を小耳にはさんだことがあると思いますが、実際そういうことはあるんでしょうか。

平原教授

平原教授

そうですね。皆さんもご存じのように、「病は気から」という言葉がありますね。昔の人は本当に言い得て妙だなと思うんですけども、ずっと気を病んでいる状態が、病気の原因の一つになるということは、経験的によく知られていたんですね。

平原教授
平原教授

平原教授

ただ、その病気の原因になる「気を病んでいる」状態というのは、ストレスという言葉のニュアンスとはちょっと違います。医学的にはストレスとは、外からの刺激によって体に起こる反応とされており、言い換えれば「神経に対する負荷」とも考えられます。最近の研究によると、その神経と免疫系は、非常に深いかかわりを持っているということが分かってきました。これを「神経免疫連関」というのですが、つまりストレスを受けて神経に負荷がかかると、免疫系にも影響が及び、様々な症状が出てくるということがわかってきたのです。

清水先生

清水

「病は気から」というのは、単なる「気の持ちよう」という問題ではないかもしれないんですね!気持ちの問題で具合が悪いように感じるのではなく、免疫系にまで影響が出ていると。
私も学会発表前は結構下痢になったりするのですが、内科に行っても「(検査の結果上は)どこも悪くないですね~」「ストレスですね~」と決まり文句を言われてしまったり。こういった医学的に説明できない症状は「不定愁訴」とひとくくりに片付けられてしまいがちですが、もしかしたら何らかのストレスがかかって、免疫系の異常が発生しているかもしれない、ということですか。

平原教授

平原教授

そうですね。まさにおっしゃるとおりで、ストレスが原因で神経系が活性化されることで、免疫系が適切もしくは不適切に活性化され、例えばお腹が痛くなる、下痢をしてしまうという症状が出てくる可能性は十分考えられます。当然まだまだ分からないことはたくさんあって、それだけが原因とは言い切れませんが、研究を続けることで、臨床にかかわる先生方や患者さん方にとって何か有益になることがひとつでもわかればな、と日々思っています。

清水先生

清水

なるほど。すごい勉強になります。
ただ、免疫というと、用語としては難しく感じてしまいます。最近は新型コロナのワクチン接種の話もあって、免疫や抗体という言葉も一般的に使われるようになってきました。しかしそれでも、おそらく視聴者の皆さんも、なんとなく理解はしてるけど詳しくはよくわからないという状態だと思います。よろしければ免疫ってどんなものなのか、簡単にご説明いただいてもよろしいでしょうか。

平原教授

平原教授

まず「免疫」っていう漢字を見ていただくと非常にわかりやすいかなと思うのですが、「免れる疫病」と書いて免疫と読みます。つまり、病気になったときに、その病気から体を守るシステムのことを指します。具体的には、さっきお話がありましたSARS-Cov-2(=新型コロナウイルス)のような、病原性の異物が体に入ってきたときに、体の中で異物を排除する方向に働くのが、免疫システムです。免疫細胞が異物を排除しているおかげで、我々の体はウイルス感染や細菌感染から常に守られているんです。一方で、免疫細胞が不適切に働いてしまうと、今度は様々な病気になるということもわかってきています。

免疫のしくみ 免疫のしくみ
清水先生

清水

わかりました。ありがとうございます。
先生は災害治療学研究所でも研究をなされているということですが、災害とストレスと免疫には、どういった関係があるんでしょうか。

平原教授

平原教授

災害と一言で言っても、本当に様々な災害があると思います。2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行も広い意味では非常に大規模な災害ですし、千葉県で近年起こった台風も自然災害です。世界的な規模で起こっている戦争も、戦争災害ということができます。
そういう災害が起こると様々なストレスがかかるっていうのは、皆さんも経験がおありかと思います。それは心理的なストレスだけではなくて、例えば自然災害で体育館などに避難すると、慣れない環境で長期間過ごさなければならないですよね。それは身体にとっても非常に大きなストレスです。

ストレスと免疫の関係 ストレスと免疫の関係
平原教授

平原教授

そのときストレスは免疫系にもいろんな影響を及ぼすわけです。免疫系を抑制する方向に働いたり、逆に過剰に活性化する方向に働いてしまったりして、最終的に様々な病気として現れてきます。我々は科学の力を使ってその原因を細胞や分子レベルで明らかにしていって、新たな治療のターゲットにできればなと考えています。

清水先生

清水

災害のストレスによって免疫の異常が起こり、いろんな症状が起きるということがよくわかりました。しかし、免疫の異常とは、具体的になにがどうおかしくなっているのか、調べられるんでしょうか。

平原教授

平原教授

ここ5年ぐらいで非常に研究が進んできまして、一個一個の細胞レベルでかなり高解像度に、いろいろな情報を得られるようになってきているのが、一つの大きな進歩です。

清水先生

清水

もう一つの細胞レベル。一個一個で。

平原教授

平原教授

はい。一つの細胞ですね。
例えばお腹が痛い場合、腸の中ではどういった異常が出ているのか、今までは組織レベルでしかわからなかったのが、今は腸にかかわる細胞のうちのどれが悪さをしているかということがわかります。

清水先生

清水

もうそこまで分かるんですね。
災害によってどの免疫細胞に異常があるのかいうのを一個一個見ていくことで、新しい治療法や新しい薬の開発に繋がることもあるんでしょうか。

平原教授

平原教授

そうですね。例えば、災害時のストレスを受けて、ある特定の神経系や免疫細胞の集団が異常を引き起こしていることが新たに分かれば、そこを狙い撃ちした、今までにない治療法を考えることが可能かなと思います。災害時に特有の症状に、よりピンポイントで効くような治療法の開発に繋がればなと思っています。

平原教授
清水先生

清水

記憶に新しいことですと、千葉県には大きい台風が15号、19号と来ましたが、あの時は災害発生直後というよりも、しばらく経ってからどっと患者様が増えて、今まで通りの治療だけでは治らないっていう方も多かった印象です。そういった方にピンポイントに効く治療法が、先生の研究で開発できるかもしれないという。

平原教授

平原教授

そうですね。まさに我々が研究している獲得免疫系という細胞集団は、災害が起きてすぐ後の急性期というより、むしろ慢性期の病気に深く関わってるということがわかってきています。例えば災害からしばらくしてからだんだん症状が悪くなって、今までの治療だけでは効かなくなる、というような患者さんに、何か手助けできるような治療法が開発できればなというのは、僕たちの夢の一つです。

清水先生

清水

災害というと、どうしてもメディアに出るのって急性期なので、移行期・慢性期って、テレビにもあまり映らないですよね。ただそれでも災害の後に出てくる特有の症状に悩んでいる患者様はたくさんいらっしゃるので、そういった方のための新しい治療の一手になる研究が、災害治療学研究所で行っていけるといいのかなと思っております。

平原教授

平原教授

はい。ただ、細胞の解析には非常に多くのお金がかかるのも現状です。多くの方にご支援ご協力をいただいて、皆様の期待に応えられる成果を出せるよう、頑張っていきたいと思います。

清水先生

清水

非常に重要な研究だと思います。ぜひこれからも進捗について教えていただければ幸いです。
今日はありがとうございました。

平原教授

平原教授

ありがとうございました。

平原教授
平原教授
平原教授
平原教授
平原教授
平原教授
平原教授
平原教授
清水先生

千葉大学未来医療教育研究機構 特任助教
インタビュアー:清水 啓介

未来医療教育研究機構特任助教。災害治療学研究所ではファンディング企画部で広報を担当。附属病院整形外科/痛みセンターでは、脳画像、心理学的見地から慢性疼痛の作用機序の解明及び治療を担当している。

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