千葉大学災害治療学研究所のミッション
千葉大学災害治療学研究所は、自然災害やパンデミックなどによる社会的脅威に対して、国民の健康・安全および社会の環境・活動性を守ることができる「災害レジリエントな社会」を構築することを目標に、2021年10月に発足致しました。
我が国は世界でも有数の災害大国です。日本は環太平洋火山帯(Ring of Fire)の一角をなし、これまでも多くの巨大地震、火山噴火、津波に襲われてきました。2011年には、有史最大級規模の東北地方太平洋沖地震による東日本大震災が発生しましたが、その影響は地震後10年経った今も依然爪痕深く残っており、特に福島第一原発事故に伴う住民の生活環境の変化は、多様で深刻な健康被害をもたらし続けています。しかしながら、この様な環境変化やストレスを背景に生じる健康被害の病態解析と解決法の研究は大きく遅れており、早急な対応が必要です。
また、2019年に首都圏を直撃した令和元年房総半島台風(台風15号)は、強風による長期間の断水・停電により、医療機関・福祉施設などのいわゆる災害弱者を中心に多くの災害関連死を生み、水害後に特徴的な侵襲性真菌感染症などの特異な感染症も発生しました。さらにこのような風水害は、地球温暖化による気候変動により今後ますます増加し、巨大化することが懸念されています。
さらに2020年初頭からは、我が国の歴史上3度目のパンデミックとなる新型コロナウイルス感染症が世界流行し、現時点でもその終息は見えていません。そして、この様なパンデミック下で巨大自然災害が発生する「複合災害」では、その被害は相乗的に拡大すると想定されていますが、現時点でも根本的な解決策は確立されていません。
こうした課題を解決するためには、これまで医学・生物学研究者のコミュニティー内で進められて来た疾患の病態解析研究だけでは不十分であり、異分野の研究者や産学官民の様々なステークホルダーとの連携を深め、学際的な研究を推進する必要があります。そしてその出口としては、健康を損ねる社会的要因の分析とその解決策の提言を進め、社会実装を力強く推進することが社会から求められています。これらを背景に千葉大学では、健康をターゲットとする医療系3学部である医・薬・看護の3学系、先端計測・AI技術等により災害研究を進める理学・工学系、植生等から頑健な国づくりを進める園芸学系、災害による社会変革を防ぐ社会学系の研究者が結集し、学際的に災害治療学研究を進める学術基盤が構築され、本研究所が発足するに至りました。
我が国には既に、災害の発生機序の解明や防災研究を推進する災害関連の研究所が複数設置されており、これまで世界の災害研究を牽引してきました。一方、千葉大学災害治療学研究所は、自然災害やパンデミックによる健康被害を最小化することを目標に、災害時と災害後に人々の健康を守ることに特化した研究所として、文部科学省からその設置を認めていただきました。
千葉大学災害治療学研究所は、このような研究・活動の中核となって、災害レジリエントな社会の構築を推進して参ります。大きな目標ゆえ、その実現には今後長期間、試行錯誤と努力を粘り強く重ねていく必要があると考えております。災害にしなやかに対応できる健康で豊かな国づくりを達成するまで、皆様のご理解とご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。